古民家再生×大兵工務店「日本人の魂に響く家」

築150年の古民家の再生に向けて

昔の手塚邸

宇都宮市の郊外、田園風景の中に建つ手塚家は明治元年築とされ、150年近くの歴史を有します。何世代にもわたって住み継がれてきたこの家には、数年前まで施主(ご主人 64歳)の母親が一人で住んでいましたが、他界されてからは住む人もなく、空き家になっていました。

生まれ育った実家への愛着と、古民家に対する造詣も深いご主人は一念発起し、代々住み継がれてきた住まいの再生を決意。現在は宇都宮市の中心市街地の自宅に住んでいますが、ゆくゆくは奥様(58歳)と二人でのんびり暮らすつもりで、愛着のある実家をリフォームすることにしました。

過去の新聞記事がきっかけ。再生計画が動き出す

完成までの流れ完成までの流れ

再生前の古民家

築150年近くになる古民家は「寒い、暗い」ことが最大の難点とか。リフォームにあたってご主人は、昔ながらの構造体はなるべく残し、再利用できるものは最大限残しつつ、現代の暮らしに合うような改築を望んでいました。

先に触れたように、何世代にもわたって住み継がれた手塚家は、時代ごとに増築や改修が施されており、家を支える柱や梁は場所によって状態が異なっていました。

難易度が高く、かつ、大がかりなリフォームになることが予想されたことから、建築会社選びは慎重に。いくつかの業者を検討した中で白羽の矢が立てられたのが大兵工務店でした。

そもそものきっかけは平成10年(1998)までさかのぼります。地元紙の記事に、大兵工務店が手がけた岩舟町(現・栃木市)の古民家再生事例が取り上げられたことがありました。当時、ご主人はこの記事を頼りに現場まで足を運んだとか。古民家に対する関心の高さをうかがい知ることができます。

当時の丁寧な仕事が印象に残っており、なおかつ、高い技術力を有する数少ない工務店であることから、今回の古民家再生にあたって問い合わせたそうです。

「これも何かのご縁ですね」とご主人。その後、大兵工務店の山本兵一社長と度々打ち合わせを重ね、信頼関係をつくっていきました。互いに歳が近いこともあり打ち解けやすかったとか。ここから念願の古民家再生が本格始動します。

再生前の古民家

大兵工務店が以前手がけた古民家再生

予期せぬアクシデントが発生。家族が思いを引き継ぐ

契約日の数日前、予想もしなかった事態が発生します。ご主人が突然、病を患い倒れてしまいました。即、入院して検査・治療を行いましたが、容体は芳しくありません。一命こそ取り留めましたが、一時は生死をさまよう深刻な場面もあったそうです。

当然、この古民家再生プロジェクトは一時頓挫します。再生計画の骨子はご主人と社長の二人で詰めていましたが、当の主役(ご主人)が不在では計画は進みません。

東京から駆けつけた長女(28歳)と次女(24歳)は、「父の実家のリフォームをする」程度の話は小耳に挟んでいましたが、本格的な古民家再生が計画されていたことは帰省後初めて知ったそうです。

病床の父は快方に向かうのか、それとも寝たきりになるのかさえわからない状態でしたが、娘たちは父の思いを引き継ぐことを決意。父が長い間思い描いてきた夢を実現するために、母と自分たちで古民家再生に取り組むことにしました。

ご主人と奥様

娘さんたち

「父が生まれ育った実家の再生は、父本人にとっても大事なことですが、手塚家にとっても大切なことだと思いました。自分たちには代々住み継がれてきた家を受け継いでいく役割があると思い、母とともに再生計画を進めることにしました」と娘さんたちは口をそろえます。

ほどなくして親子3人は改めて契約書を取り交わし、工事がスタートします。驚くのは工事が始まるとともにご主人の容体が回復に向かい、集中治療室から一般病棟に移ったこと。「娘たちの思いがお父さんに届いたのかもしれません」と奥様は振り返ります。

その後、古民家再生計画の主役は、主に2人の娘さんにバトンタッチ。大兵工務店側も二代目棟梁の剛久夫婦に現場を任せたことから、この古民家再生プロジェクトは施主側も工務店側も親子二代に引き継がれることになりました。

施主の要望を匠の技で実現。住み心地を最優先に

工事が順調に進み、完成に近づいていくにつれて、ご主人の病状はどんどん回復していきました。娘さんたちは工事の様子をタブレット型情報端末で撮影し、病床の父に報告していたとか。長年の夢が実現していく過程を見る度に、元気を取り戻していったそうです。現在は自ら歩けるまでに回復。日常生活のほとんども1人でこなせるようになりました。

「予期せぬトラブルの中、『よくぞ決断してくれた』と、妻と娘たちに感謝したいです」とご主人。あこがれだった薪ストーブに自ら薪を焼(く)べながら話します。手塚家の古民家再生にあたりご主人の要望を振り返ると、大きく以下の4つが挙げられます。

施主の要望

  • その1 100年先まで長持ちする堅牢な家にしたい
  • その2 柱や梁、建具など使えるものは有効利用したい
  • その3 昔ながらの間取りはできるだけ残したい
  • その4 断熱材などの新建材は使わず、自然素材にこだわりたい

いずれの要望も匠の技術で実現しましたが、当初の計画にはなかった要望も取り入れられました。ご主人が病を患ったことで変更点が出てきたからです。具体的には、薪ストーブのある土間空間の床の高さを20㎝ほど下げたり、浴室やトイレに手すりを設置しました。

ご主人が少しでも暮らしやすいように……。奥様と娘さんたちの気づかいに対して、大兵工務店は専門家の立場で細部まで丁寧にサポート。住み心地のよい住まいが完成しました。

地域の人々の愛着。次世代に受け継ぐ使命感

完成後の建物は、木の香りに満ち溢れていました。ヒノキ材を貼った床、スギ板貼りの天井など、無垢材がふんだんに使われています。柱と梁、建具などは既存のものを生かすなど、古いものと新しいものが見事に融合。リフォームにあたり敷地内にある土蔵から出てきた書院風の建具を有効利用するなど、手塚家〝らしさ〟も存分に表現されています。

「現代の家は壁で仕切られていますが、昔の家は建具を開け放つとひとつながりの大空間が現れます。この開放感が最大の魅力ですね。天井も梁が剥き出しとなり、日本家屋ならではのディテールがより一層感じられるようになりました」とご主人は満足げ。自身にとって大切な場所が、奥様や娘さんたちの協力によって実現したこともあり、よろこびもひとしおです。

完成後、ご近所に住む方々が新しくなった手塚家を見に来たそうですが、そのとき祖母の友人から、祖母そして祖父の思い出話や、手塚家の歴史・出来事などの話を聞いたそうです。そのとき2人の娘さんは、ご近所の人たちは手塚家の建物に愛着を持っていることを実感しました。同時に、父の実家を次世代に受け継いでいく使命感を強く感じたそうです。「古民家再生を決断して本当に良かった」と感想を語ってくれました。

家族のみならず地域の人々にとっても価値のある古民家再生プロジェクト。その思いは100年先の未来へと受け継がれます。

外観


伝統技法を継承し、現代の暮らしに合う住まいを

その1

日本建築ならではの工法を生かす

手塚家の基礎は、石に柱が載っている「石場建て」という伝統工法で施工されています。現在のようなコンクリートの基礎ではありません。寺院などで見られるこうした工法を継承するとともに、現代の家に必須の耐震性を確保しました。

石場建て

その2

外壁は二重の板張りで気密性を高める

昔の家は自然素材だけで出来ています。昔ながらの工法で快適に暮らせる住空間にするために、板張りの外壁は二重にしました。手間暇はかかりますが、こうすることで気密性が高まり、断熱材を使ったり24時間換気にする必要もありません。ただし、窓は機能性とコストの両面から、すきま風を防いでくれるアルミサッシュを採用しました。

二重の板張りの外壁

その3

屋根を残したまま、傷んだ柱のみを入れ替え

築150年近くになる手塚家の柱は、一部が腐敗するなどして強度が低下していました。そのため、屋根を残したまま傷んだ柱だけを入れ替えるため大胆な荒療治を実施。高度な技術を要しますが、家を支える柱の刷新で100年先に受け継がれる住まいになりました。

家を支える柱

その4

天井を抜いて空気をまんべんなく循環

エアコンを使わない手塚家では、冬の暖房は薪ストーブのみ。暖まった空気を室内に隈無く循環させるために、すべての天井を撤去して吹き抜けにしました。天井の一部にシーリングファンを設置し、空気を対流させています。剥き出しになった梁は開放感を与えるほか空間の意匠にもなっています。

剥き出しになった梁
棟梁・一級建築士・山本剛久

「古いものを再生させる仕事に手応え」

棟梁

築150年近くの古民家は、床下や天井裏など解体してみなければわからない部分も多く、とても難しい仕事でした。一方で、何世代にもわたって増築・改修されてきた跡を目の当たりにするたび、木の家の素晴らしさを実感しました。建て主の思いに寄り添い、互いに信頼関係を築きつつ、古いものを再生させる喜びに溢れた仕事が経験できました。

キッチンスペシャリスト・山本香奈子

「世代間のコーディネート役として」

キッチンスペシャリスト・山本香奈子

手塚家のご主人と当社社長の2人で計画していた古民家再生ですが、ご主人が体調を崩されたことにともない、私たち夫婦が現場担当を任されました。設計者である社長と、奥様や2人の娘さんの間に入り、いわば「通訳」のような感じで家づくりをサポートしていきます。娘さんたちとのやりとりは、女性同士で和気あいあい、楽しみながら進めることができました。

受賞歴

栃木県産材木造住宅コンクール

  • 平成15年度 最優秀賞受賞(栃木県知事賞) 森戸邸(栃木市)
  • 平成22年度 最優秀賞受賞(栃木県知事賞) 山本邸(栃木市 / 自邸)
  • 平成25年度 第26回 最優秀賞受賞(栃木県知事賞) 宇梶有三・はま子邸(宇都宮市)

日本漆喰協会作品賞

  • 第4回 コールハウス SUMIKA project by TokyoGas(宇都宮市)
  • 第5回 山本兵一邸(栃木市)
  • 第7回 広瀬染物店の見世(佐野市)
  • 第9回 潮田家脇蔵修理工事(真壁、桜川市)

佐野市 水と緑と万葉のまち景観賞 まちなみ建築部門

  • 広瀬染物店(佐野市)

伝統工法を用いた住宅(数寄屋造り)や社寺建築(宮大工)、蔵や古民家の新築、修復、再生を行っています。

社名 有限会社 大兵工務店
(だいひょうこうむてん)
所在地 〒328-0036 
栃木県栃木市室町4-12
会長 山本 兵一
(やまもとひょういち)
代表取締役 山本 剛久
(やまもとたかひさ)
TEL 0282-22-2321